Step 4: 商品を作る
仮説と需要が見えたら、次は売れる「形」にする。ここで言う商品は、必ずしも完成したSaaSではない。コンサル提案書、診断レポート、手動運用のMVP、LP、デモ動画、先行予約ページも商品である。重要なのは、顧客が「何を買うのか」「いくら払うのか」「何が納品されるのか」を理解できる状態にすること。
この章のゴールは、4週間で検証できる商品形態を選び、価格・提供範囲・法務リスクを1枚に落とすこと。特に法務は専門判断をしない。弁護士に相談する前の論点整理までに留める。
目次
- [[#1. 商品の3形態 — コンサル提案書 / 診断レポート / MVPプロダクト|商品の3形態 — コンサル提案書 / 診断レポート / MVPプロダクト]]
- [[#2. 形態の選び方 — 軸X・軸Yそれぞれの最適形|形態の選び方 — 軸X・軸Yそれぞれの最適形]]
- [[#3. 4週間スコープ設計 — 1サイクルで何を出すか|4週間スコープ設計 — 1サイクルで何を出すか]]
- [[#4. MVP高速開発 — Claude Code + 9名社員でのスピード設計|MVP高速開発 — Claude Code + 9名社員でのスピード設計]]
- [[#5. 価格設計の基本 — コスト積み上げ vs 価値ベース|価格設計の基本 — コスト積み上げ vs 価値ベース]]
- [[#6. 法務リテラシー(1) — 特商法 / 資金決済法の基本|法務リテラシー(1) — 特商法 / 資金決済法の基本]]
- [[#7. 法務リテラシー(2) — 出会い系規制法 / 児童保護(軸Y関連)|法務リテラシー(2) — 出会い系規制法 / 児童保護(軸Y関連)]]
- [[#8. リジェクト対策 — アプリストア審査 / 決済代行審査|リジェクト対策 — アプリストア審査 / 決済代行審査]]
- [[#9. 契約書・利用規約の最低構成|契約書・利用規約の最低構成]]
- [[#10. 軸X・軸Yそれぞれへの適用|軸X・軸Yそれぞれへの適用]]
- [[#11. 演習 — 自分の商品案を3形態のどれにするか決める|演習 — 自分の商品案を3形態のどれにするか決める]]
1. 商品の3形態 — コンサル提案書 / 診断レポート / MVPプロダクト
3形態
| 形態 | 何を売るか | 向いている場面 | |---|---|---| | コンサル提案書 | 課題整理 + 解決計画 + 実行伴走 | BtoB、高単価、信頼重視 | | 診断レポート | 現状分析 + 改善優先順位 | 初回接点、見込み客の温度上げ | | MVPプロダクト | 最小機能の実物 | BtoC、SaaS、継続課金 |
最初から完成品を作らない。売上に近い順に作る。軸Xなら「診断レポート→提案書→伴走契約」。軸Yなら「LP→手動MVP→課金導線→プロダクト」。
2. 形態の選び方 — 軸X・軸Yそれぞれの最適形
軸X
軸Xは信頼と具体性が命。最初の商品は「AI導入診断 + 改善提案」が強い。いきなり月額契約を売るより、現状を診断して、顧客の言葉で課題を見せる。
推奨順:
- 無料または低価格の初回ヒアリング
- 診断レポート
- 3ヶ月伴走提案
- 継続改善契約
軸Y
軸Yは継続課金と審査制約が命。最初の商品は「課題の核心1つだけを解くMVP」。法務・ストア審査・決済審査が重い場合は、アプリではなくWeb LP + 事前登録 + 手動提供から始める。
3. 4週間スコープ設計 — 1サイクルで何を出すか
4週間で作るのは完成品ではなく、買う/買わないがわかる状態。
| 週 | やること | 出力物 | |---|---|---| | 1週目 | 商品仮説を1枚にする | 商品シート | | 2週目 | 見せるものを作る | 診断サンプル / LP / デモ | | 3週目 | 3〜5人に見せる | 商談ログ / 反応メモ | | 4週目 | 価格と範囲を直す | Go / No Go判定 |
スコープの切り方
- 機能は1つに絞る
- 納品物を明確にする
- サポート範囲を明確にする
- 返金・解約・キャンセル条件を先に書く
4. MVP高速開発 — Claude Code + 9名社員でのスピード設計
開発前に決めること
- 何を検証するMVPか
- 誰が使うか
- 何ができたら成功か
- 個人情報・顧客データを扱うか
- 課金が必要か
社員配置
| 工程 | 担当 | 出力 | |---|---|---| | 仕様 | まつもと | spec / 画面一覧 | | UI | アイヴ | HTMLモック / 画面案 | | 実装 | わだ / Codex | 動くMVP | | 文章 | 糸井 | LP / メール / 説明文 | | セキュリティ | 徳丸 | 個人情報・権限・ログ点検 | | レビュー | 安藤 | 完了条件チェック |
MVPで顧客データを扱う場合は、先にセキュリティ点検を入れる。AI送信、ログ保存、削除、アクセス権限は「後で考える」対象ではない。
5. 価格設計の基本 — コスト積み上げ vs 価値ベース
2つの価格設計
| 方法 | 考え方 | 弱点 | |---|---|---| | コスト積み上げ | 工数 × 時給 + 経費 | 安くなりやすい | | 価値ベース | 顧客に生まれる価値から逆算 | 価値説明が必要 |
軸Xでは価値ベースを使う。たとえば、月20時間の事務作業が減り、時給換算3,000円なら月6万円の価値。そこに属人化リスク低減、ナレッジ共有、教育コスト削減が乗る。価格は「作業時間」ではなく「改善される経営指標」に紐づける。
最小価格シート
` 商品名: 対象: 解決する課題: 納品物: 提供期間: 価格: 含まれるもの: 含まれないもの: 追加費用: 解約/返金条件: `
6. 法務リテラシー(1) — 特商法 / 資金決済法の基本
特商法
消費者庁の特定商取引法ガイドでは、通信販売について広告表示、誇大広告等の禁止、未承諾メール広告の規制などが整理されている。Webで商品・役務を販売するなら、販売価格、支払時期、提供時期、返品・解約条件などを明確にする必要がある。
資金決済法
ポイント、プリペイド、アプリ内通貨、チケットのように「先にお金を受け取り、後でサービスに使う」形は、前払式支払手段に該当する可能性がある。関東財務局は、自家型と第三者型で届出・登録の扱いが異なると説明している。軸Yでポイントやコインを扱うなら、弁護士相談の優先度を上げる。
弁護士に聞く論点
- 今の商品は通信販売に該当するか
- 特商法表記に何を書くべきか
- 継続課金の解約表示は十分か
- ポイント・コイン・前払いは資金決済法に触れるか
- 返金条件の書き方は妥当か
7. 法務リテラシー(2) — 出会い系規制法 / 児童保護(軸Y関連)
軸Yが出会い・マッチング・コミュニティに近い場合、法務と安全設計が商品そのものになる。ここは自己判断しない。最低限、以下を弁護士相談の論点として用意する。
- サービスが出会い系規制法の対象になるか
- 年齢確認が必要か
- 未成年保護の導線は十分か
- 通報・ブロック・モデレーションはあるか
- 違反ユーザーの停止・証跡保存はどうするか
- プライバシーポリシーと利用規約で何を明示するか
「グレーだから後で考える」ではなく、グレーだから最初に潰す。審査・決済・広告で止まると、開発済みの機能が全部無駄になる。
8. リジェクト対策 — アプリストア審査 / 決済代行審査
アプリストア
AppleのApp Review Guidelinesは、安全性、パフォーマンス、ビジネス、デザイン、法務の5領域で審査観点を整理している。Google PlayもUGCアプリに対して、継続的なモデレーション、通報、ブロック、違反コンテンツ対応を求める。ユーザー投稿、チャット、プロフィール、画像投稿があるなら、MVPでも審査対策が必要。
決済
Stripeなどの決済代行は、禁止・制限業種リストを持っている。成人向け、金融、ギャンブル、規制領域などは特に注意。決済は「実装できるか」ではなく「審査に通るか」が先。
チェックリスト
- UGCがあるか
- 通報ボタンがあるか
- ブロック機能があるか
- 運営の削除・停止権限があるか
- 年齢確認が必要か
- 決済代行の禁止業種に該当しないか
- アプリストアではなくWeb先行にすべきか
9. 契約書・利用規約の最低構成
BtoB契約
- 業務範囲
- 納品物
- 期間
- 報酬・支払条件
- 再委託
- 秘密保持
- 個人情報・顧客データの扱い
- 損害賠償
- 解約
- 知的財産権
BtoC利用規約
- サービス内容
- アカウント登録
- 禁止行為
- 課金・解約・返金
- 投稿コンテンツの扱い
- 通報・停止
- 免責
- 個人情報の扱い
- 準拠法・管轄
テンプレをそのまま使わない。自分のサービスの実態に合わせる。特にAI、個人情報、UGC、継続課金は雛形からズレやすい。
10. 軸X・軸Yそれぞれへの適用
軸Xの商品案
` 商品名: 中小企業AI導入診断 対象: AIを使いたいが何から始めるか決まっていない経営者 納品物: 現状ヒアリング、業務棚卸し、改善優先順位、3ヶ月提案 価格: 初回低価格 or 無料 → 本契約で回収 注意点: 顧客データの扱い、秘密保持、成果保証の言い方 `
軸Yの商品案
` 商品名: 課題特化型MVP 対象: 既存サービスに不満を持つ個人ユーザー 納品物: LP、事前登録、手動MVP、月額課金テスト 価格: 月額数百〜数千円の検証 注意点: 年齢確認、UGC、決済審査、ストア審査 `
11. 演習 — 自分の商品案を3形態のどれにするか決める
商品シート
` 仮説名: ターゲット: 解決する課題: 商品形態: コンサル提案書 / 診断レポート / MVPプロダクト 4週間で見せるもの: 価格: 含むもの: 含まないもの: 法務・審査リスク: 弁護士に聞く質問: Go/No Go基準: `
完了条件
- 商品形態が1つに決まっている
- 4週間で作る範囲が書けている
- 価格と含まないものが明記されている
- 法務・審査リスクが最低5項目出ている
参考資料
- [消費者庁 特定商取引法ガイド — 通信販売](https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/mailorder/) — 通信販売の表示・広告規制
- [消費者庁 特定商取引法とは](https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/) — 法の目的と対象取引類型
- [関東財務局 — 前払式支払手段関係](https://lfb.mof.go.jp/kantou/kinyuu/pagekthp00400036.html) — 自家型・第三者型、届出・登録の概要
- [Apple App Review Guidelines](https://developer.apple.com/app-store/review/guidelines/) — App Store審査ガイドライン
- [Google Play User Generated Content Policy](https://support.google.com/googleplay/android-developer/answer/9876937?hl=en) — UGCアプリの要件
- [Stripe Restricted Businesses](https://stripe.com/en-br/legal/restricted-businesses) — 決済代行の禁止・制限業種
学習目標
- 3形態の使い分けを言語化できる
- 4週間で出せるスコープに切り分けられる
- Phase 0で必要な法務知識を最低限押さえる
成功基準
- 自分の2軸それぞれに「形態 + 4週間スコープ」が決まる
- 弁護士相談前のチェックリストが1枚できる