Step 6: 改善する
1サイクル回したら、必ず数字で振り返る。当たれば伸ばす。外れれば畳む。判断を感情ではなく数字で行う。改善の難しさは、作業を続けながら一度立ち止まり、冷静に「これは続ける価値があるか」を見るところにある。
この章のゴールは、スケール / ピボット / 撤退をその場で判定できるレビューシートを持つこと。売上が出た時ほど冷静に、売上が出なかった時ほど具体的に見る。
目次
- [[#1. なぜ改善が一番難しいか — 走りながら止まる訓練|なぜ改善が一番難しいか — 走りながら止まる訓練]]
- [[#2. 計測指標(1) — LTV / CAC / Payback Period|計測指標(1) — LTV / CAC / Payback Period]]
- [[#3. 計測指標(2) — Rule of 40 / Churn / NPS|計測指標(2) — Rule of 40 / Churn / NPS]]
- [[#4. 計測指標(3) — 軸X特有指標(継続率・追加受注率)|計測指標(3) — 軸X特有指標(継続率・追加受注率)]]
- [[#5. 計測指標(4) — 軸Y特有指標(DAU/MAU・課金転換率・退会率)|計測指標(4) — 軸Y特有指標(DAU/MAU・課金転換率・退会率)]]
- [[#6. 判定マトリクス — スケール / ピボット / 撤退 の3択|判定マトリクス — スケール / ピボット / 撤退 の3択]]
- [[#7. 撤退判定基準 — 何を見たら畳むか(Stop Loss)|撤退判定基準 — 何を見たら畳むか(Stop Loss)]]
- [[#8. 運営オペ — キャスト管理・カスタマーサポート・障害対応|運営オペ — キャスト管理・カスタマーサポート・障害対応]]
- [[#9. 次サイクルへのフィードバック — 仮説修正の型|次サイクルへのフィードバック — 仮説修正の型]]
- [[#10. 軸X・軸Yそれぞれへの適用|軸X・軸Yそれぞれへの適用]]
- [[#11. 演習 — 1サイクル終了後の数字レビューを書く|演習 — 1サイクル終了後の数字レビューを書く]]
1. なぜ改善が一番難しいか — 走りながら止まる訓練
改善が難しい理由は、動いている本人ほど現実を見たくなくなるから。頑張った時間が長いほど、撤退を認めづらい。逆に、少し売れただけで「当たった」と思い、未検証のまま拡大してしまうこともある。
改善とは、努力を否定することではない。次の4週間をより良い仮説に使うために、事実を整理することである。
見る順番
- 数字
- 顧客の言葉
- 自分の体感
- 次の制約
体感から見ない。体感は最後に置く。
2. 計測指標(1) — LTV / CAC / Payback Period
LTV
LTVは顧客1人が生涯で払う粗利の見込み。初期はざっくりでよい。
` LTV = 月額粗利 × 平均継続月数 `
CAC
CACは顧客1人を獲得するためのコスト。広告費だけでなく、営業時間も入れる。
` CAC = 広告費 + 営業時間 × 時給換算 + 制作時間 × 時給換算 `
Payback Period
CACを何ヶ月で回収できるか。
` Payback Period = CAC ÷ 月額粗利 `
ソロ事業では、回収期間が長すぎると資金より先に集中力が切れる。最初は短く回収できる形を優先する。
3. 計測指標(2) — Rule of 40 / Churn / NPS
Rule of 40
SaaSでよく使われる考え方で、成長率と利益率の合計を見る。初期の個人事業では厳密に使わなくてよいが、「成長しているが赤字が深い」「利益は出るが伸びない」を見る視点として使える。
Churn
Churnは解約率。軸Yのような月額課金では最重要。
` 月次Churn = 当月解約数 ÷ 月初顧客数 `
解約率は数字だけで見ない。解約理由の原文を集める。
NPS
Bain & CompanyはNPSを顧客ロイヤルティを測る指標として整理している。初期は点数そのものより、「なぜその点数か」の自由回答を重視する。満足度調査を乱発せず、少人数に深く聞く。
4. 計測指標(3) — 軸X特有指標(継続率・追加受注率)
軸Xは高単価・少数顧客。見るべき指標は売上額だけではない。
| 指標 | 意味 | |---|---| | 初回面談数 | リストから商談に進んだ数 | | 提案化率 | 面談から提案に進んだ割合 | | 成約率 | 提案から契約に進んだ割合 | | 継続率 | 初回契約後に続いた割合 | | 追加受注率 | 既存顧客から別案件が出た割合 | | 紹介数 | 顧客から新しい顧客を紹介された数 |
軸Xで本当に強いのは、追加受注と紹介。広告で新規を取り続けるより、1社で深く価値を出し、紹介を生む方が強い。
5. 計測指標(4) — 軸Y特有指標(DAU/MAU・課金転換率・退会率)
軸Yは人数と継続が命。
| 指標 | 意味 | |---|---| | 訪問数 | LPやアプリに来た人数 | | 登録率 | 訪問から登録した割合 | | 初回価値到達率 | 初日に価値を体験した割合 | | DAU/MAU | 月間ユーザーのうち日次利用する割合 | | 課金転換率 | 無料から有料に進んだ割合 | | 退会率 | 有料ユーザーが辞めた割合 |
最初はDAU/MAUより、初回価値到達率を重視する。初日に価値が伝わらないプロダクトは、継続以前に入口で負けている。
6. 判定マトリクス — スケール / ピボット / 撤退 の3択
| 判定 | 条件 | 次アクション | |---|---|---| | スケール | 顧客が買い、継続し、紹介が出る | リスト拡大・仕組み化 | | ピボット | 痛みはあるが、形・価格・ターゲットがズレる | 1要素だけ変えて次サイクル | | 撤退 | 痛みも支払いも弱い | 仮説を閉じる |
ピボットで変えるのは1つだけ。ターゲット、課題、商品形態、価格、チャネルを同時に変えると、何が効いたかわからなくなる。
7. 撤退判定基準 — 何を見たら畳むか(Stop Loss)
撤退基準は始める前に決める。
例
- ヒアリング5人中、強い痛みが1人以下
- 提案3件で有料化0件
- LP訪問100で登録0件
- 登録10人で初回価値到達1人以下
- 法務・審査リスクが重く、4週間では潰せない
- 自分の強みが効かず、競合の方が明らかに有利
撤退は負けではない。弱い仮説を早く閉じることで、強い仮説に時間を戻す。
8. 運営オペ — キャスト管理・カスタマーサポート・障害対応
商品が売れ始めると、作る仕事より運営の仕事が増える。
最低限の運営表
| 項目 | 決めること | |---|---| | 問い合わせ | どこで受けるか、何時間以内に返すか | | 障害 | 誰が検知し、誰に連絡するか | | 返金 | 条件、期限、判断者 | | 顧客データ | 保存場所、削除方法、アクセス権 | | 改善要望 | どこに記録し、いつ見るか |
軸Yでユーザー投稿や人の関係性を扱う場合は、通報・ブロック・停止・年齢確認・モデレーションが運営の中核になる。これは後付けできない。
9. 次サイクルへのフィードバック — 仮説修正の型
レビュー後は、次の仮説を1文で書き直す。
` 前回仮説: 結果: 学び: 残すもの: 変えるもの: 次回仮説: 次の4週間のGo/No Go基準: `
変える対象
- ターゲットを変える
- 課題を変える
- 商品形態を変える
- 価格を変える
- チャネルを変える
同時に変えるのは最大2つまで。初期は1つが望ましい。
10. 軸X・軸Yそれぞれへの適用
軸Xレビュー
見る順番:
- 面談数
- 提案化率
- 成約率
- 継続・追加受注
- 紹介
月1件でも高単価なら続ける価値がある。ただし、毎回オーナーの手作業が重すぎるなら、商品形態を見直す。
軸Yレビュー
見る順番:
- LP訪問
- 登録
- 初回価値到達
- 課金
- 継続
課金前に離脱しているなら価格ではなく価値伝達の問題。課金後にすぐ辞めるなら期待値と実体験のズレ。
11. 演習 — 1サイクル終了後の数字レビューを書く
レビューシート
` サイクル名: 期間: 仮説:
実行したこと:
- ヒアリング:
- 投稿:
- LP/商品:
- 商談:
数字:
- 接触数:
- 面談数:
- 提案数:
- 成約数:
- 売上:
- CAC:
- LTV:
- 継続/解約:
顧客の原文: 1. 2. 3.
判定: スケール / ピボット / 撤退 理由: 次サイクルで変えるもの: 次のGo/No Go基準: `
完了条件
- 数字が空欄ではない
- 顧客の原文が3つ以上ある
- 判定が1つに決まっている
- 次の4週間の仮説が1文で書けている
参考資料
- [Bain & Company — Net Promoter Score and System](https://www.bain.com/consulting-services/customer-strategy-and-marketing/net-promoter-score-system/) — NPSの公式解説
- [Net Promoter System — Measuring NPS](https://www.netpromotersystem.com/about/measuring-your-net-promoter-score/) — 測定方法の概要
- ai-conpany
playbook/startup-process/solo-app-startup/gates.md— ソロアプリ事業のゲート指標 - ai-conpany
explorations/003-ai-consulting/metrics/README.md— 003事業のKPI・Stop Loss
学習目標
- 主要KPIを3つ即答できる
- 撤退判定基準を自分で書ける
- 次サイクルの仮説修正フォーマットを持つ
成功基準
- 1サイクル後のレビューシートが書き上がる
- スケール / ピボット / 撤退の判定がその場で言える